いつもよりも大胆に
※大学生パロ
吾郎視点
「…ただいまー」
夕刻、陽が横に差し掛かってきた頃、俺は足早にマンションの階段を駆け上がった
(使うの、今回が初めてなんだよな…)
目的の階に辿り着き、もらっていた合い鍵を取り出してすんなりと入れた大河の部屋
いないことは分かっていたがお決まりの挨拶をしてみる
いつもなら「おかえりなさい…って可笑しくないッスか」と少しはにかんだ顔で出迎えてくれる大河が
いるのにな、その様子を思い出してまるで俺とあいつが同居してるみたいで嬉しくなる自分がいる
(帰ってきたら今度は俺が出迎えてやろう)
(どんな顔するかな、あいつ)
そう考え、遠慮無しに玄関に足を踏み入れた
明かりを付けようとスイッチを探して適当に押す
そこでふと違和感を覚えたが、気にしないでおいた
じわりと滲み出る汗を服で拭いながらリビングに入り、荷物を置くと、早速前々から大河から許しを得ていた風呂を借りることにした
1人暮らしの部屋にしては風呂が立派に大きくて、体のでかい俺からしたら広さが理想そのもので羨ましく思う
湯船を充分に堪能して風呂から上がり、下着姿で部屋に戻ると室内の寒さにさっと身震いしてくしゃみを出した
(…しまった、浮かれてて暖房付けるの忘れてた)
普段から体調管理には気を付けていたのにと反省しつつも、慌てながらエアコンをつけた
カーテンを捲り外を見ると既に冬空は真っ暗になっていた。ふと明日の予定を考える
(俺も大河も明日のサークルは休みだし、バイトも入ってないし…今日は泊まらせてもらうか)
もともと泊まる気は満々で、予備の服もちゃっかり持ってきており、大河にも泊まることを伝えるメールを送っていた
(大河のやつ…ちゃんとメール見てっかな)
髪を乾かして服をある程度身に纏うと、一人ではどうも寂しくなってテレビをつけてみた
そして鞄からコンビニで買った弁当を取り出し、机にひろげて食べ始める
今日は朝から晩までバイトしていることを予め聞かされていたから、目の前の画面より大河の頑張ってる姿が目に浮かんだ
それで余計、恋しい気持ちが募るもので、
(おとさんを待ってた時と、似てんな…)
しかしそれとは少し違う、恋人という特別な存在に対する想いもあることを自覚していた
キッチンへ入り、食べ終わった弁当を軽く洗ってゴミ箱に捨てる。再びリビングに戻るとテレビの前に腰を下ろした
早く帰ってこい、とお笑い番組の笑い声に紛らせて呟けば、がちゃりと玄関から鈍い音がなった
それを大河だと認識して、急いで向かう。そこには今にも倒れそうな大河がいて、驚きつつも傍に駆け寄る
「おかえり、」
彼の冷えきった体を正面から支え、ぎゅっと包むように抱き締めて迎え入れた
大河は眠そうに瞼をゆっくり開けて俺を認めると「ただいま」と小さく返してくれた
きっといま、俺締まりのない顔してるけどそれを突っ込むのは勘弁してくれ。大河を充電中で、すっげえ幸せなんだ
見るからに眠そうだったそいつに眠いかと聞くと案の定すぐ頷き、それから更に頭を下げてきた。待たせてごめんってことだろうか
(そんな気遣いしなくていいのに…バイト、大変だったんだな)
お疲れさまの意を込めてそっと頭を撫でた
いつもは子ども扱いだと思われて嫌がられるが、今回は安心しきったような表情を向けられたから此方も自然と頬が緩む
立ち上がることも億劫らしい大河の体を肩に抱え、眠らせるべく寝室へと歩みを進めた
その途中で大河がもぞもぞ動き始めたので何事か尋ねようと振り向くと、不意を衝かれて床に押し倒された
いままでこんな風にされたことがなかったため、混乱すると同時にこれからの展開が読めてきて心音がやばいくらいに高鳴る
なんだかんだ、大河はいつも俺のことを大切に考えてくれていて、我が侭にも付き合ってくれる優しいやつで、
だからか自分の欲を抑えて俺を傷つけないように接している。それを知っていてずっと傍にいた俺は狡いのかも知れない
そんな好きな相手が求めてきてくれたことは希少でとても嬉しいし、できることなら今までの分応えてやりたい
でも此処はまだ冷たい廊下で、大河は疲れ切っていて、そう思うと素直に受け入れられない
「ちょ、待てっ大河…っ!」
無茶すんなと声を張り上げようとしたらそれを吸い込むようにキスされた
そしてするりと優しく背中に回ってきた腕にどきりとしながら俺も大河の首に腕を絡める
「…っは、んっ大河…っぁ」
2人の距離を縮めて何度も口を吸われる。その度に大河の熱が伝わり、気持ちよくて流されそうになる
最初こそ抵抗していたが、はっきり言うと俺だってしたいのだ
「待てません、吾郎さんがほしい」
「…っ!」
ああもう、大河のバカ野郎!不意打ちだ!大好きだ!
明かりがついてなけりゃこんなみっともねぇ顔、見られずにすんだのにっちくしょ…格好いいよ、ほんと
これも惚れた弱みか、観念しようかと思うが開いた口は床が冷たいから駄目だと素直になれず、
するとふっと微笑んで大丈夫とひんやりするであろう床との距離を詰めてみせる
背中に伝わる温度に身構えてみたが、確かに、暖かい
そこで、つけっ放しにしていたテレビから床暖房のCMが流れ出した。俺たちはそこでぴたりと静止したが、そうか、と頭の中で納得した
明かりのスイッチを適当に押していたが、どうりで思ったより数が多いはずだ
違和感の原因が解明したところで、でも床って痛いしやだなと呟けばびくっと反応した大河が離れ始める
(…やば、いまの墓穴だった!)
そう思うもつかの間、大河は疲れた体をよろめかせながら寝室へ歩き出した
制止の声を掛けたが彼の耳にはもう届かず、俺はただ後を追いかけ、ベッドまで無事に辿り着く様子を見届けることしかできなかった
「ごめん、大河…俺、ちゃんと、好きだからな」
朝、目を覚ますと大河がテキパキと朝食の用意をしていた
俺が起きたことに気付くと朝の挨拶に合わせて昨日はすみません、と謝罪してきた
目をぱちくりさせて言われたことを目覚めたばかりの働かない頭の中で復唱した後、謝るなよとだけ伝えた
(拒んだのは俺の方なのに、)
言葉も続かず、静かに朝飯をすませ、洗い物や歯磨きを終えた俺たちは互いに暇を持て余そうとしていた
この気まずい状況を打破したくて、テレビをぼんやりと眺めている大河の隣に腰を下ろし、そっと寄りかかった
ぴくりと身を震わせ、先輩?と振り向く大河に軽く口づける
目を見開くそいつからすぐ顔を離し、昨日の不意打ちの仕返しだとはにかんでテレビに向き直した
「…今なら、いいぜ」
「……狡いッスよ、俺、あんたの前じゃいつも格好つきませんね」
「いいんだよ、大河は大河のまんまで」
そう言って俺たちは向き合って笑った
そして、ゆったりとした動作で手を握られる
「それじゃ、先輩の気が変わらないうちに頂きます」
「ん、ちゃんと風呂入ったか?」
入りましたよ、先輩じゃないですしといつもの生意気な態度でキスを仕掛けてきた
ああ、こいつシャンプーのいい香りする。俺にも同じ匂いしてるかな、そう片隅で思いながら大河に身を任せた
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大河視点のより長くなりました;
前回ので省いた分、補いたく……!
あの話だけでは大河が可哀想(苦笑)だったので、次の日にイチャつかせようと思いまし、た←
蛇足ですが、
大河は忙しさ故に吾郎君のメールを確認してません
また、酔いの勢いだったと言い訳を考えてた彼でしたが、見抜かれるだろうと分かってたので正直に謝りました