舐めときゃ治る
「…!いた!」
昼休み。
決まってこの時間、攻防戦が繰り広げられる購買前の廊下で視線を彷徨わせながら、目当ての後輩を探していた吾郎の視界に小柄で茶髪の少年が1人。
つい嬉しくなってその後輩のもとへと急いで駆け寄る。
「大河!」
「!先輩、」
お、驚いてる。してやったりー、吾郎は緩む頬に嬉しさを隠しきれないまま一緒にご飯、と言い掛けたその時。
「先輩!」
「っいてえ!」
後輩、大河のいる場所までもう少しというところで、派手にこけた先輩が1人。
「大丈夫ですか。慌てなくてもちゃんと先輩の分まで死守しましたから」
ほら、と抱えていたパンの1つをたった今うつぶせ状態になってしまった吾郎に見せる。
そうかそういや俺のパンのこと頼むって朝お願いしてたっけ、できた後輩に感心。
頭の片隅でそんなことを考えつつ、そういう問題じゃねえよまず俺の身を心配してくれよと心の中で目の前の後輩につっこむ。
ほんと顔に出やすいなこの人、大河はただ面白そうに彼に手を差し出しつつ、
「ま、とりあえず大した怪我とかしてないみたいですし、幸いパンを買うことに夢中で誰も見てませんでしたよ良かったッスねー」
「や、お前ばっちし見たじゃん。つーか笑うな結構痛かったんだぞ」
相変わらず可愛げのない後輩の差し出された手を払い、必要ないと何事もなかったように立ち上がる。
それじゃ、早いとこ屋上行きましょうよ。大河の一言に素直に頷き、2人は今もなお昼食を巡って繰り広げられている戦いの場を後にした。
「あ、やっぱ血が出てる」
「…え、どこッスか」
晴天下の中、大河が死守したパンを受け取り、誰もいない屋上で2人きりの状況に少しどきどきしながら、
だけれどのんびりとした雰囲気を保ちつつ食事を進めていた吾郎は、先程より違和感のあった自身の腕をじっと見る。
大河も食事を一時中断し、彼の視線に合わせて怪我の位置を把握する。
「うわ、結構派手にこけてましたけど血が出るほどだったんすか。」
「だから痛かったって言ったろ。いやでも、血ィつってもキズ小さいし、すぐ止まるだろ」
「これだから先輩は。…傷口、早く消毒しないとバイ菌が入って炎症おこしたりするんですよ。練習に支障を来しても知りませんからね」
部活の時もそうだが、なんだかんだ言いながら大河、俺に対して心配性だよな。これまでの練習を思い出し苦笑いを浮かべる。
(俺が み、右足怪我してることもあるんだけど、さ……大河がこんなに心配してんのって俺だけだった、り?)
そうだったらいいな、なんて都合のいいことを一瞬でも考えてしまった。…いいよな、想ってるくらい。
そう開き直り吾郎はふと、今もなお、普段から先輩はーと愚痴る後輩に目を向け(また自分に都合の良いことを)思いつく。
「こんな怪我はな!」
「…舐めときゃ治るとでも?」
ありゃ、なんで分かった。ひく、と顔を引きつらせる吾郎にやれやれと呆れる大河。
しかし吾郎はそこで折角の思いつきを終わらせるはずもなく、慌てるように自分の腕を大河の眼前にやる。
「ちょ、なんすか。怪我してるの分かってますって、」
「確かに舐めときゃ治ると思ってるぜ!それを大河がしてくれたら絶対効き目抜群!なハズだぜ!」
「……は?」
目の前の男は何を言い出すのか、唖然としながらも大河はついつい聞き返してしまった。
いやいや聞き返されても俺がすっげー恥ずかしいだけから!ああもう顔があっちい!こんなの柄じゃねえもんな?!
どうかここは最後まで言わせてくれ!赤面してようが、震える声で早口になってようが構わない。吾郎の想いはただ1つ。
「だからほらこれ!なめ、「ごめんなさい」
「なんで?!頼むたいがぁーっ!」
「余所当たって下さい」
拒否されたことに少なからずショックを受けている吾郎は、後輩の頬が薄ら赤くなっていることに気付かないまま。
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大河(→)←吾郎 三船戦後の設定
最後、断りをいれてますが大河くん、精一杯の照れ隠しですよ!
きっとゴロ君が他の人のとこに行って、おんなじ行動をしようならばその相手に容赦なく当たります。合掌!←
あの戦いがあってから互いに心配し合う関係になりましたよね。
怪我した者同士ってこともあるんでしょうけれど微笑ましいな、かわいいな〜v(*^v^*)
3rd再放送は、実に面白い。 青春タイゴロ万歳!←
改めて見直した大河初登場時、吾郎君の大河への関心と話題の食い付きっぷりに悶えたのは言うまでもないことです(笑)