ヤバい!あいつもこいつ狙いかよ!
※渋谷→タイゴロ(吾郎視点)
「ちーっす!」
「えっ…茂野先輩!」
お久しぶりです!と慌てながらもみごとに整列して介錯する仲良しトリオと服部。
うわー本物だ!と騒ぎ出してるのは新しく入った後輩たちだろうか。
今年はそれなりの経験者が入ったって聞いてたけど、たしかにそれなりのがたいしてんじゃねーか。
…て、あいつも初対面の俺を目の前にしてそう呟いてたっけか。
そういやその生意気キャプテンはどこにいんだ?
「ああ、大河なら鈴木さんと山田先生のところに行ってますよ」
「お、おお。そっか…」
俺が辺りを見回して探しているのを服部が気付いたようだ。
つーかいつから服部のヤツ「大河」って呼ぶように…。
いかんいかん、こんなモヤッとした気持ちになってしまってはあいつの思うつぼだよな。
ここはちゃんと平静を装って、先輩らしくだな。
「あの!茂野先輩!」
「あ?え…と、」
だれだっけ?
後輩なのは分かるけど、
駆け寄ってきたそいつは真っ直ぐな目をしていた。いい目だな。
それから一呼吸したかと思えば、
「俺、茂野先輩に憧れてここに入学した渋谷って言います!」
「しぶやー声上擦ってるぞ〜」
「う、うるせえ!きんちょーしてんだよっ!」
へーコイツが「しぶや」か。大河が気を揉んでるっていう。
俺には問題あるって感じには見えないけどな。
「俺もピッチャーやってて!」
知ってる、
「今はまだ145キロですけど、絶対先輩くらい投げられるようになって優勝してみせますんで!」
おう、そういう強気なとことか俺に似てるって言ってたな、
「今日よかったら俺の投球、見てもらえませんかっ!」
「おーいいぜ。」
「っ!よっしゃー!…あ。その、ありがとうございます!」
「構わねーよ」
「…でもキャプテンになんか言われるかも知れない」
「キャプテンて…大河が?」
頷きながら一瞬身震いした渋谷に首を傾げつつ、あいつとは衝突してばっかなんだって?と聞いてみた。
「清水キャプテンとはちょっと…馬が合わなくて最初喧嘩ばっかでしたけど!今はすごい尊敬してます!」
ああ知って…ん?
「ピンチの時ちゃんとカバーしてくれて頼りになるし、格好いいし、発言がいちいち気に障る時もあるけど根は優しいし!」
んん?
あれ、何これキャプテン自慢かなんかか?そういう話だったっけ?
周りのやつらが顔引きつらせて後ずさってるぞ。
「でた。うちのキャプテン自慢。渋谷おまえホント清水先輩好きだよなー」
「んなっ…」
「なー、前はあんなにあいつムカツクむかつくって言ってたのによー態度変わりすぎ」
「ちょ、何言ってんだよおまえら!」
まだ名も知らねー後輩たちの冷やかしに、ちがうっつーの!とそいつらの後を追いかけ回す渋谷。
まただ、モヤモヤする。ひじょーに気に食わない。
顔真っ赤にしてるの自覚ないのか、なにが違うんだよ!好きなんじゃん。俺のだぞ!
大河が渋谷にやきもきする気持ちがここに来てなんとなく分かった気がする。
「なにやってんの。お前ら」
「げ!キャプテン!」
噂をすればなんとやらだな。
ドアの前で仁王立ちしている大河を目にして後輩固まってら。
服部に至ってはやっと来たかといった感じで見てる。
トリオはトリオで見て見ぬ振りをして素振りしてるし。思わず苦笑いが漏れる。
「大河、」
「うわ、先輩、また来てたんスか」
「うわってなんだよ。失礼だな」
そー言うヤツは頭なでなでしてやる。先輩の特権だなこれ。
「ちょ、やめて下さいよ。後で覚えてろよ」
すみません大河さんもうしません!
頭から手を退いたと同時に気付いたが、
「あ、後ろ鈴木いたのか」
「もう先輩!ちゃんといましたよっ」
「え、いたのマネージャー」
「ちょっと!清水君まで!」
もーと口論しようとする鈴木にはいはいと受け流す大河。それを傍観する俺と服部。
以前となんら変わりない光景に少しほっとした。
? しかしさっきからなんだか睨まれているような。
不思議に思って後ろを振り向いてみると、ランニングを始めだした後輩たちの中で唯一渋谷が此方にずかずか向かってくる。
「キャプテン!」
「なんだ渋谷、お前も走り込み、「俺、負けねーッスから!」
「…は?」
なににだよ。そう言って大河は特に気にするわけでもなく、鈴木にさっきのメニュー見せてと手を差し出す。
その様子に少しふくれながら目の敵とばかりに俺は睨まれてる。そこで察した。
俺にだ!さっきの言葉、絶対俺に負けないっていう宣言(アピール)だ!!
ついさっきまで俺に憧れてるって素直だったコイツはどこへいった?!
対抗心剥き出しじゃねえか。あれか、俺が大河の頭撫でたのがいけなかったのか。
「茂野先輩!」
「うぇ?あ、なんだよ」
いきなり声かけるなよ!素っ頓狂な声出ちまったじゃねえか。
「俺の投球、見て下さい!」
「え?お、う。そうだったな」
「なにお前。茂野先輩に見てもらうつもり?」
「!は、はいっ」
…嬉しそうにしてんなこの野郎。
「…ふぅん。まぁ、見てもらってフォームがもっと良くなりゃ苦労はないだろうけど」
「まだ言うんスか!もう俺、十分基礎は押さえてますって!キャプテンも俺の投球姿見て惚れ直さないで下さいよっ」
「惚れてないし」
「即答スか?!くそ…絶対負けらんねえ」
「だから何にだよ」
俺だよ俺に!お前もいい加減気づけ!いつもは鋭いだろそういうの!
漫才コンビの一種だろうかコイツ等。爆笑寸前のヤツが隣にいんぞ。服部、おまえ…
言い寄る後輩に目線を合わせないまま、鈴木からもらったメニュー表に一通り目を通したらしい大河は顔を上げる。
「よし、じゃあ投球見てもらったら渋谷はいつもの練習メニュー3割り増しな。皆は送球練習始めて!」
「「ういっす!」」
「げげっ!まじすかキャプテン!愛がない!」
「事実ないからな」
「ひでえ」
2人の会話をぼんやり眺めていた俺の腕を急に引っ張る手がある。渋谷だ。
先輩こっちでやりましょ、本気で投げます。真顔で言うこいつに絶対大河はやんねえぞと意味深に笑い返す。
「…茂野先輩には、負けられないッス。キャプテンのハート掴んでやる」
ぽつりと早口で呟きやがった。やっぱ俺だったか。
俺らは火花が散る寸前だ。
「…待て渋谷、それから」
「え、な、何スかキャプテン!」
俺たちの様子を見兼ねたようだ。
大河に呼び止められてどもるコイツに共感。
「俺は茂野先輩を渡す気さらさらないから。ちょっかい出した時点で容赦しないと思ってくれて構わないけど」
「っ!……は、い」
「ちょ!」
大河くんそれ勘違い!
思わぬ好意を寄せる相手からの牽制に、口ごもる渋谷が哀れすぎて同情しちまう。
小声で会話してるとはいえ、大河、おま、いきなりなに投下してんだ!
…す、すっげえ嬉しかったけどな!
自分の顔が熱くなるのが分かる。ちくしょう、夏だったら誤魔化せたのにな。
とりあえず日本に滞在中は大河を想っているライバル、渋谷に目が離せそうにない。
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この話メインの3人以外の人が空気な件 ^p^
5thで、しばらく56くんが屋上のグランドを利用した頃のネタ
思いつくままにではなく、予め構想を練って作るべきでした;
ゴロ君は彼の学校生活も気になってたと思います。元女子校だからね!
とりあえずわたし、渋谷君に夢見すぎです。大渋も好きですよ!←