「くれぐれも茂野君の迷惑にならないようにね」


迷惑掛けられてるのは寧ろ俺の方だ






荷物の整理が済んだところで部屋の時計を見やるとちょうど12時を指していた。どうりでお腹が空くわけだ
近くで手伝いをしていた先輩と目を合わせると、何か分かったように彼はすくっと立ち上がり、
昼食はカップでいいか?と、それに俺が答える間もなく足早にキッチンへ向かい、再びやかんに火を点け始めた
先程の茶を飲んだときからお昼のことを考えていたらしく、予め湧かしていた湯の残りを再度温める形だった


「先輩の嫌いな食べ物ってなんスか」
「あ?なんだよ急に」


互いに椅子に腰掛け、俺はその目の前に沸騰したばかりの湯を入れたカップを2つ並べて問いかけた
「参考までに。後先俺が料理作ったとして、それ食えないって言われたら困りますし」
「あ、そうだな」
うんうんと頷き、納得した様子の先輩を尻目に、3分まだかとカップを見つめる
言ってみたはいいが、実際俺のレパートリーはまだ少ないし、これから先輩のためにわざわざレシピ探して
先に覚えてからこの人に教えていかなければならない状況が起こるのは目に見えている
先輩にいつも振り回されてばかりだが、不思議と彼に頼られることに悪い気はしない


(約束した以上は先輩と一緒に自分も成長するほかないな…)


高校からのよしみだし。そう思い、先輩を見てそっと笑むと、その人は驚いたように目を泳がせた
若干頬が赤く見えるのは気のせいだろうか
今日は5月にしては蒸し暑いし、先程まで作業をしていたのだからきっとそのせいだろう
「え、えーと、嫌いなもんの話だったな。俺、グリンピースとか、豆類がだめ」
「あー…分からないでもないッスけど」
因みに好きな食べ物はと聞くと、カレーとか、ハンバーグ、と渋って答えるものだから
「ガキの好きなもん好きなんスね」
「だああっもう!だからお前に言うの嫌だったんだよ!」


要は、お子様ランチで出される定番ものが好きなんだなこの人。かわいらしい一面発見。いや、それはおかしいか
つか、先輩のこと可愛いとかなに。普通大柄な先輩に使う言葉じゃないよな
けらけら笑う俺に腹を立てた先輩は、教えたんだから大河も教えろとぶっきらぼうに聞いてきたので彼と同様に渋ってみせた
「…嫌いなものは粘っこいのですよ。納豆とか、長芋とか」
「そうなのか?意外と上手いぜ?んで、好きな食べ物は?」


「たまごサンドとか、トンカツとか………あとエビ、フライ」
少し間をおいて、最後の方は聞き取れないかくらい小さく告げると今度は先輩が笑い出した
「ぶはっ!えっエビフライって!大河、おまっ、カワッ…!!」
人のこと言えねえじゃん!と言い返されて、ぐっと言葉に詰まった。くそ、聞かなきゃよかったかも


ようやく3分経ったので、カップのフタを開けると食器棚に向かっていた先輩が箸を渡してきた
同時に手を合わせて「いただきます」の声とともに食べ始める
ふと、目の前の人物が左手に持つものに目が留まった


(…あの箸。俺の、)



たしか、高2の修学旅行で買って、俺が先輩にとお土産として渡したものだ。使ってくれてるんだな
途端、むず痒い気持ちが込み上げ、緩みそうになった顔をどうにか引き締めた
そして何事もなかったように取り繕って食事を再開する


卒業してからも姉貴の話じゃ忙しいと聞いてたのに、高校まで来て様子を見てくれたり、
先輩の周りに料理できる人くらいたくさんいるだろう中で、俺に頼ってくれたり、
俺が素っ気なく渡したものを大事に使ってくれていたり、
さっきはさっきで、普段無関心なのに誕生日まで聞いてきて嬉しそうにはにかんでるし、



(ほんと、何なんだよこのおっさん…)


でもそんな彼のことをまた、かわいいと思ってしまった自分がいて嫌になった


(だから先輩に「かわいい」ってなんだよ!)


今日は午後からバイトだったらしく、先輩は食事を済ませるとすぐ身支度をして出て行った
カレンダーを見ると帰りは夜8時ごろと記してあった。俺もそろそろバイト探すかな
先輩ばかりに生活は甘えてられない。そう思い立って台所に向かい、冷蔵庫の中をチェックし夕食の献立を考えた
今日は、ピラフでいいか


もはや習慣なのか、当たり前のようにコンビニで買ってきた弁当を片手に帰宅したおっさんを目にした夜には、
笑顔で少々米のへばり付いた木べら(使用済)を容赦なくストレートに投げつけた





料理の腕前
(やらかしてくれたなおっさん!)
(いてっ!いやマジごめん!!)


腹を空かせてた先輩は、弁当もピラフも残さず完食しました


*おまけ



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お題に添えてないという…^p^;


エビ料理が好きな大河さん
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彼、吾郎君には結構なんでも正直に話しちゃいます