5月中旬ともなれば大学生活にも慣れ始める。
同時に、茂野先輩の日頃の食生活も見慣れてきた。
「またカップ麺スか」
きまって食堂の出入り口付近にあるテーブル席に座る先輩の横に腰を下ろす。今日は1人か。
やや呆れた口調で声を掛けたためか、すぐに彼は顔をしかめた。そう睨まなくても。
「んだよ、仕方ないだろ。俺料理したことねぇし」
「自慢になりませんよ、それ」
ほらまたしかめっ面。偉そうにできないことを自ら公言しておいてこの顔。
表情もよく忙しく変わるもんだ。見てるこっちは面白くて仕方ない。
ふと先輩の視線が下に落ちる。
「そう言うお前は今日も弁当なんだな」
どうやら俺がさっき鞄から取り出したそれに注目しているようだ。
「ええ、まあ。料理くらいできなきゃ今後1人暮らしなんてやってけないんで」
「あのー俺もう1人暮らししてんだけど」
「先輩は論外ですからね」
「生意気!」
「何を今更」
こういうやりとりも日常茶飯事になってきた。それほど先輩と会う機会は多い。
たしかに、彼とは学科が同じなので他学科と比べれば合う回数は嫌でも多いのだが、
それは同じ学科専攻の講義と昼食時に、よく鉢合わせするといっただけでのことである。
それに茂野先輩は3年、俺は入学して間もない1年。彼と同学年の人たちと比べれば少ないはずだ。
…やめたやめた。なんで先輩との関係でこんな1人でもやもや考えなきゃならないんだ。
思考を中断して目の前にある弁当の包みを開ける。
その動作を先輩がじっと見てる。
「おお!うまそ〜」
やりませんよ。
「先輩、あんたのもう3分経ったんじゃないんですか?」
「ん?やべっ!麺伸びてっかも…あちゃー」
ばーか。相変わらずだな、この人。
うん、彼とはこの距離感でちょうどいい。このくらいが、ちょうど。
先輩の慌てる姿を垣間見ながら自分もいざ食べようかと箸に手をつける。
「…なぁ、大河」
「何スか」
「お前さ、俺と一緒に住もうぜ!んで、俺に料理教えてくれ」
「……は?」
なに突拍子もないことを。
唖然とする俺を余所に、俺の家は広いぞーと住む部屋の間取りを語り始める先輩。
とりあえず、あんたの脳内で俺が同居することは決定事項ですか。
頭が重くなるのを感じながら、彼の今日の昼食である伸びきった麺をただ眺めることで
現実逃避したくなった清水大河18歳の春のできごと。
そういうわけで、先輩の家に(半ば強制的に)暫く一緒に住むことになりました。
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